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世界初のDMV実用化へ動き始めた阿佐海岸鉄道<阿佐海岸鉄道/徳島県海陽町・高知県東洋町>

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四国の右下、波(徳島)と土(高知)を結ぶ阿佐線(あさせん)は全通を果たすことができませんでしたが、現在形を変えて、そして誰も見たことが無い未来へ向かって走り始めようとしています。

工事が行われている甲浦駅

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甲浦駅(かんのうらえき/高知県東洋町)

先で乗車した列車が宍喰駅(ししくいえき)止まりだったので、宍喰と甲浦の間を徒歩で移動して上り列車に乗車することにしました。それほど遠い距離ではありません。

駅自体は以前に訪れたことがあります。街の規模に対して似つかわしくない立派な高架駅という風貌という印象。

現在ご覧のような工事が行われていますが、これが完成すると阿佐海岸鉄道が世界初の事例を生みだします。

世界で初めて。DMV実用化

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工事の概要に描かれているイラスト。バスのような、でもタイヤと車輪がついてるし...線路の上走ってるし...

こちらDMVという新たに導入へ向けて整備が進められている未来の乗物。

DMVとは、Dual Mode Vehicle(デュアル・モード・ビークル)の略。
研究に研究を、審議に審議を重ねて徳島県が主体となって令和二年(2020)の実用化を目指す、新しい乗り物の形です。

走行実験は世界中、日本では北海道で行われたことがありますが、いずれも実用化には至っていません。このプロジェクトが成功して阿佐海岸鉄道でDMVが走り始めることができれば世界初の事例。鉄道ファンのみならず、技術者など世界中から注目を集めています。

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阿佐海岸鉄道線は全線高架なので、地上、すなわち道路に下りるための設備が必要です。現在甲浦駅ではそのためのDMV専用インターチェンジの工事が行われていて、完成すると地上(道路)と高架(線路)がゆるやかな坂で繋がります。

反対側のインターチェンジですが、そちらは海部駅ではなく一つ徳島寄りの阿波海南駅で工事が行われています。阿佐海岸鉄道は海部駅までで阿波海南駅はJR線、すなわち他社線の駅。けれど前者は高架駅、後者は地上駅。工費短縮の効果があることが理由。

利用状況としても、阿波海南駅の近くには海部高等学校(かいふこうとうがっこう)があり周辺で最も利用客が多い駅なので、理に適っているように感じます。なお、海部高校は福岡ソフトバンクホークスの4億円プレーヤー・森唯斗(もりゆいと)投手の母校です。

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甲浦駅終端にある途切れた線路。かつてはこの部分に車止めが設置され、ここから先は何もありませんでした。

その封印が解かれ、この先にインターチェンジが設置されます。この地点でDMVは車輪からタイヤへとチェンジ。その時点で世界初、そして世界唯一の出来事が行われる場所になります。

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甲浦の室戸寄り部分は工事中のため、車止めは徳島寄りに仮移行され砂袋が積まれています。

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隣の宍喰(ししくい)から県境を越えて入ったところが、甲浦駅がある東洋町。ポンカンやサーフィンで有名な南国情緒あふれる街です。

ここまで北から牟岐、海南、海部、宍喰、(高知県)甲浦...
と一定規模の街がありますが、甲浦から先の野根(のね)地区を過ぎると、十数kmに亘ってしばらく集落がありません。すなわち東洋町は高知県と言っても県内との交流に乏しく、文化圏は海部エリアや徳島と同一。
このことが鉄道延伸がためらわれた理由であり、高知方面への行き来が見込めないため建設中止が勧告された最大要因です。

上り列車に乗車

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帰りに乗車する上り列車がやってきました。

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行きで乗車したのと同じASA300形「たかちほ」
先の乗車で乗客は自分一人でしたが、この時は数名の乗客がいました。地元民の利用と言うよりは、観光や自分と同じように乗り鉄と言った方々でした。

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宍喰・海部方面へ向けて発車!
ド直線につくづく高規格を感じさせる鉄路。無くしてしまっては勿体ないなあという印象を受けます。

行きはイルミネーションを楽しんで風景をあまり見ることができなかったので、帰りの乗車では車窓観光をメインに乗ることにします。

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先のトンネルをくぐると、すぐに宍喰の街が見えてきます。

ここと甲浦は県こそ変わりますが、右の山なみを越えてすぐのところ。今回徒歩で甲浦駅を目指しましたが、1時間くらいのものです。

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宍喰駅の手前、車窓から阿佐海岸鉄道の車庫に止まっているもう一両の保有車両、ASA100形「しおかぜ」の姿をチラッと見ることができました。今回は車両運用の都合で往復共に「たかちほ」となりましたが、いつかこちらにも乗車してみたいと思います。

上り列車の方が海を眺めやすい

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宍喰駅を出てトンネルをいくつかくぐったところで、車窓に海が広がります。

来る時に乗車した下り列車では、海はどちらかと言えば左後方に見える形になります。
上り列車だと進行方向斜め前。向きとしては上り列車の方が自然な形で海を眺めることができます。

戦国武将の転機になった現場の海

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海部駅が近いところ。海は海ですが、細長く突き出た半島に囲われた那佐湾(なさわん)が見えてきました。

湾内に見えている小島は二子島(ふたごじま)。長宗我部元親の末弟・島親益(しまちかます、又の名を弥九郎)が病気療養のため船で有馬温泉へ向かう途中に強風に遭い、波の穏やかな那佐湾の二子島に停泊しているところ、敵襲と勘違いした海部友光によって討たれた事件
このことが引き金になり長宗我部元親は阿波國を侵攻。戦火は四国中に広がり、一時は四国全土を手中に収めることとなりました。

再び海部駅

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旅の始まり、海部駅に戻ってきました。町内(まちうち)トンネルが見えます。

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結果的に往復乗車することになった「たかちほ」号。

来年導入が予定されているDMV車両は3両。
それらが全て配備され順調に運用されると、阿佐海岸鉄道が現在保有している「しおかぜ」「たかちほ」はどうなるのでしょうか。特に言及されていませんが、車齢を考慮すると引き取り手探しに難航するでしょうから、廃車になる公算が高い。数奇な運命をたどった「たかちほ」号ですが、やってきた先がこれまた誰も未来を予想することができない小さな鉄道会社。列車は機械ではありますが、縁と言うか、この車両だけが背負った運命が反映されているなあと感じます。

阿佐海岸鉄道では、現在運転士を募集しています。
仮に応募して採用されると、世界初のDMV運転士になるチャンス。とても夢のあるお話です。

阿佐鉄ニュース>阿佐海岸鉄道の運転士を募集しております

甲浦駅

< 自家用車 >
高松駅から 約3時間10分、156km
徳島阿波おどり空港から 約2時間20分、98km
高知龍馬空港から 約2時間10分、101km
< 公共交通機関 >
阿佐海岸鉄道阿佐東線・甲浦駅下車

※ 主な地点からの最速・最短距離

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この記事を書いた人

野瀬 章史
野瀬 章史/ゲストハウスそらうみ 四国八十八ヶ所霊場会公認先達 法名・照山の僧籍

四国高松でゲストハウスそらうみを運営する傍ら、四国八十八ヶ所霊場会公認先達として、お遍路さんの案内を務める。法名・照山(しょうざん)の僧籍も持つ。趣味はバイクツーリング、カヌー、登山、鉄道、料理など。日本の全離島・全地点を隅々まで回るべく、愛犬しょうとの日本一周旅の途上。