四国のおすすめ観光スポットをご紹介

国鉄の忘れ形見の小さな鉄道に乗車<阿佐海岸鉄道/徳島県海陽町・高知県東洋町>

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四国の右下エリアで細々と運行されている「あさてつ」こと阿佐海岸鉄道(あさかいがんてつどう)
営業距離が8.5kmの小さな鉄道会社は開業以来黒字を計上したことは無く、収支は現在JRを除く鉄道事業者において最も悪い数字。運営を行っている地元自治体の支援は限界が近いと報じられる事もあり、いつ廃止になってもおかしくない状況に陥っています。
今回微力ではありますが「乗ることで支援」の機会に恵まれたので、どんな列車が走っているのかレポートしたいと思います。

あさてつ起点の海部駅

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海部駅(かいふえき/徳島県海陽町)

あさてつの旅、始まりはこの駅から。三駅しかない駅名標の一つには、近くを流れる母川(ははがわ)に生息する大ウナギと、ここで行われるほたる祭りが描かれています。

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海部の不思議風景・町内(まちうち)トンネルもはもちろん健在。

鉄道建設を行った時代には山があったものの、その後の宅地化で山が切り崩され壊しにくい基礎コンクリートが残ったというわけです。

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乗車予定の列車が入線するまで掲示物を閲覧。いくつかオリジナルグッズが出ているようです。

が、購入できるのが三つある駅の一つ・宍喰駅(ししくいえき)のみ。これは相当あさてつに向いている人しか買いに行けない...
せめて車内販売でもあればですが、アテンダントさんを雇うような余裕はないでしょうし、何か良い方法はないものでしょうか。

宮崎県からやってきた「たかちほ」

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阿佐海岸鉄道の列車が入線します。

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車両はASA300形でした。

台風被害によって廃線になった高千穂鉄道から無償譲渡された、元TR-200形「かぐら」
宮崎の皆さん、「かぐら」は山から海へおしごとの場所が変わった事でいくぶん錆が目立つようになりましたが、ここで「たかちほ」として元気に走ってます!

ヘッドマークの「冬ホタル」は、

令和元年(2019)12月14日(土)から令和二年(2020)1月13日(祝月)

の期間中は「イルミネーション列車」として運転されるため。

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車内へ入ると天井部分に電飾が施されていました。

*「電飾って言っても、夜にならないと見れないんじゃあ...」
*「四国の右下(=遠いところ)に日没後に居たら、四国内在住でも家に帰れないよ!」
*「泊まり確定?」

いえいえ、列車が走り出すと昼間でも見ることができます。※後述

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阿佐海岸鉄道・阿佐東線(あさとうせん)は、

海部(かいふ)-宍喰(ししくい)-甲浦(かんのうら)
の8.5kmの路線。車庫や指令所が途中の宍喰にあるため、日中の利用が少ない時間帯など一部宍喰止まりの列車があります。

この時は海部発宍喰行き。一日何便かしかない珍しい方向幕が見れると思って勝手にワクワクしておりましたが、表示はこのままでした。

昼間も楽しむことができるイルミネーション

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「たかちほ」号、海部駅を発車しました!

駅を出るとすぐにトンネル。

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抜けたと思ったらすぐまたトンネル。路線は気持ち良いくらいの直線。行く手を阻む山を大小いくつものトンネルが貫いています。

日中でもイルミネーション列車を楽しむことができる理由はこのトンネル多さで、

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トンネルに進入すると天井にあるイルミネーションが、色鮮やかに浮かび上がります。
これが夜だと電飾は煌々と光ったままですが、明るい時間だとトンネルごとに明暗の移り変わりを楽しむことができるので、変化という点で楽しいです。

なお、光源であるLED電球は同エリアの特産品。世界広しと言えど、阿南市にある日亜化学さんがLED生みの親です。

高規格鉄道の成り立ち

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それにしても気持ち良いほどの直線と高架、トンネル。開業以来赤字経営の鉄道会社のものとは思えません。

阿佐海岸鉄道の阿佐東線は元々、日本鉄道建設公団(通称:鉄建公団)によって建設が進められた阿佐線(あさせん)が起源。徳島から南へ延びる牟岐線(むぎせん)をコツコツ延伸させて、室戸岬を回って土讃線の後免(ごめん)駅までを繋ぐ計画がありました。

波と土で阿佐線。
本格的な建設が始まったのが比較的新しい時代だったこともありますが、建設当時は徳島と高知の間で高速の特急列車を走らせることができるように高規格路線として工事が進められたことが、このような快走路線を実現しました。
その後国鉄の赤字が問題視される時代になり、建設途中だった阿佐線の工事は中止。東は海部、西は後免から延伸されることはありませんでした。

そこを国や鉄建公団に代わって部分開通にこぎつけたのが、阿佐東線の阿佐海岸鉄道であり、阿佐西線の土佐くろしお鉄道

阿佐海岸鉄道...平成4年(1992)
土佐くろしお鉄道(ごめん・なはり線)...平成14年(2002)

既に路盤等が完成していた部分の工事を新しく設立された鉄道会社が引き継ぎ、それぞれ開通することができました。

後者は沿線に安芸市などの都市があり、高知市への通学需要があります。
けれど前者は、都市と言える街は阿南以南には存在せず、沿線にある高等学校は統廃合が行われたことにより海部高校のみ。あさてつの乗車促進になるような素材を見出すことが難しく、筆頭株主でもある徳島県と海陽町の意地が列車存続の頼み、というところでしょうか。

沿線最大の街・宍喰へ

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阿佐海岸鉄道の列車は高架上を走るので、トンネルや林の間で海を眺めることができます。

風光明媚なのは路線の売りですが、潮風は列車管理には良いものとは言えず、収支や営業路線の短さの他でも、新車導入のハードルを上げている要因とも言えます。

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車窓に住宅が密集したエリアが広がってきました。奥左には大きな温泉ホテルが見えます。右手には少しわかりにくいですが、津波避難タワーも。

阿佐海岸鉄道最大の街・宍喰(ししくい)です。

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約7分の運行を終えて、こちらの列車は当駅止まり。
初めて降り立つ駅で、次またいつ来れるかわからないので、プラットホームをくまなく散策することにします。

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進行方向先に見えるのは、阿佐海岸鉄道の車庫。

「たかちほ(冬ホタル)」の他にもう一両保有している「あさしお(オリオン)」が保守管理されています。
が、その二両が同時に線路を走って行き違いを行うことがないことも、分断されている線路からわかります。

かと言って一両しか保有していなければ、故障した時などに運行できなくなってしまう。あさてつのように小規模な鉄道だとしても、国民の足・公共交通機関として機能しています。

伊勢えび駅長と南方系の海

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ひとしきりプラットホームを散策してから改札へ。こちらの駅には名物駅長がいて、日本でここだけの「伊勢えび駅長」です。
釣り人的には駅長さんより、遊泳している縞々の魚・カゴカキダイが気になります。こちらは見た目に反してとっても美味しい魚。

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運賃を払って、あさてつグッズを購入して。水槽をゆっくり眺めます。

駅長さんは二名いらっしゃいます。
泳いでいる魚は、

しましま...カゴカキダイ
青...コバルトスズメ
黄...ヒマワリスズメダイ

*「これって南の海のおさかなじゃあ...」
その通り、南方系のおさかなたちです。伊勢海老もどちらかと言えば南方系。

徳島南部は暖流である黒潮が近くを回流しているため海水温は他より高く、生息している魚が瀬戸内海などとはちょっと違う。また、その潮に乗って南の海から様々な魚もやってきます。

阿佐海岸鉄道に乗ってマリンレジャーを楽しみに来られる方はあまりいないと思いますが、ううむ、魅力的な南の海なのに説明不足。

実現しなかった阿佐線を、別の形で繋ぐ企画切符

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ようやく駅舎から退場。
次の列車まで2時間近くありますが、それはわかっていたことなので他にすることを予め考えてあります。

海部駅で乗車する時、運転士さんに

*「これ乗っても宍喰までしか行かないよ」
*「次は●●時まで列車なくて...」

全力で引き止められましたが、むしろそのために来ました。あさてつに乗ることができて良かったです。そのための待ち時間は本望です。

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行き止まりの路線なので、往復乗るだけしか用事はないのでしょうか。

いえいえ、そうではありません。
徳島から高知(またはその逆)、列車とバスを繋いで室戸岬をぐるっと回る企画切符が発売されています。

徳島
↓ JR
海部
↓ 阿佐海岸鉄道
甲浦
↓ 高知東部交通
奈半利または安芸
↓ 土佐くろしお鉄道
後免
↓ JR
高知

鉄道としては実現しなかった阿佐線は、JRと第三セクター鉄道、路線バスのリレーで行き来することができます。

続き

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2019,12/27 世界初のDMV実用化へ動き始めた阿佐海岸鉄道<阿佐海岸鉄道/徳島県海陽町・高知県東洋町>

海部駅

< 自家用車 >
高松駅から 約2時間50分、145km
徳島阿波おどり空港から 約2時間、88km
高知龍馬空港から 約2時間20分、11k0m
< 公共交通機関 >
JR牟岐線・海部駅下車

※ 主な地点からの最速・最短距離

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この記事を書いた人

野瀬 章史
野瀬 章史/ゲストハウスそらうみ 四国八十八ヶ所霊場会公認先達 法名・照山の僧籍

四国高松でゲストハウスそらうみを運営する傍ら、四国八十八ヶ所霊場会公認先達として、お遍路さんの案内を務める。法名・照山(しょうざん)の僧籍も持つ。趣味はバイクツーリング、カヌー、登山、鉄道、料理など。日本の全離島・全地点を隅々まで回るべく、愛犬しょうとの日本一周旅の途上。